LINEチャットボット(LINE公式アカウントアプリ)の活用が盛んになってきている。まず、LINEチャットボットとは何か、どんなことができるのかについてはLINE本家の事例紹介サイト『LINEで「チャットボット」!事例企業に学ぶ活用方法』が詳しい。LINE BOT AWARDSというハッカソンまで開催されており、高額優勝賞金を目指して多くの開発者がしのぎを削っている。
このような状況において、今回は特に医療福祉分野に絞ってLINEチャットボットの活用事例をレビューする。
服薬管理
まず最初に取り上げるのは服薬管理。これは昨年のゼミで取り上げたテーマなので動向が気になった。最初に紹介するのは製薬大手のファイザーが手掛ける禁煙支援公式アカウント。禁煙補助薬の服薬状況や喫煙の本数を記録し、禁煙に取り組む人をサポートするアプリである。禁煙外来の通院予定日の管理なども行う。自社製品(禁煙補助薬)を売るための呼び水といった印象。心電計に付属するおまけ心電図解析ソフトのようなものか。
これに対してこのサイトに書いてあるボットは薬の飲み忘れを防止するために開発されたものである。目的や手法は昨年のゼミで開発したシステムと類似している。我々の開発したシステムではスマートスピーカーが主役だったが、このシステムではLINEボットがその役割を担っている。が、いかにLINEが普及しているとはいえ、高齢者には音声インターフェースの方が優しいのでは・・・と思わないでもない。それにしても月々500円も払って誰が使うのだろう。
ここまで紹介した2例はコンシューマー(患者)がターゲットだったが、「LINEで服薬フォロー、薬剤師の業務負担軽減も」にはプロバイダー側の支援アプリが紹介されている。LINEを活用して服薬期間中のフォローアップを支援するアプリである。薬剤交付後、適切な時期にフォローアップのための質問やメッセージがLINEのトークで自動送信されるとのこと。何度かの定型的な自動応答のやり取りの後、必要な場合は薬剤師が個別の応答をする。従来、電話でやりとりしていたものをLINEに置き換えたといったところだろうか。メーカーのカスタマーサービスの薬局版のような印象を受けた。
第48回薬剤師力向上オンラインセミナーでも似たようなアプリ「LINE等を活用した投薬後フォロー、オンライン服薬指導への対応」が取り上げられている。厚生労働省の資料でも医療におけるICTの利活用の例としてオンライン服薬指導が取り上げられている。現在、ほっとの話題なのかもしれない。類似例として電子薬歴とLINEを連動したシステムやLINEを活用した投薬後フォロー自動システムなどがある。
在宅医療
次に取り上げるのは在宅医療。東京都健康長寿医療センター研究所は慶應義塾大学と共同して在宅での高齢者の健康づくりに活用可能なスマートフォン用 LINE BOT アプリを開発して公開している。自宅でできる簡単な運動の動画を見ることのできるアプリや1日に接種した食品群を記録できるアプリが紹介されている。いずれも従来からありそうなアプリでLINEボットを利用した点が新しいところだろうか。
次は、LINE WORKSを在宅医療に活用した取り組みである。LINE WORKSとは業務コミュニケーションのためのビジネス版LINEだとのこと。これはLINEボットのように特に何かを作り込んでいるというのではなく、情報共有のインフラとしてLINEを活用した事例のようである。
母子手帳
最後は母子手帳。母子手帳の電子化は歴史もあり多くの製品が開発されている。その電子母子手帳にLINEチャットボットを活用するという取り組みもいくつか現れてきている。
子育てオープンデータ協議会が2019年に「子育てチャットボットの利活用促進に向けた検討」の中間報告の中で、自治体のオープンデータを子育て世帯に情報提供する仕組みとしてLINEボットチャット(AIチャット)を活用したという事例がまとめられている。その中で回答ニーズの大きい分野として「育児相談」「保育園の入園申し込み」「子供の予防接種」などが挙げられていた。
その他、電子母子健康手帳の相談機能としてLINEを活用したアプリや就学未満の子育ての悩みごとに自治体が持つ情報で回答するAIチャットなどがある。
このように医療福祉分野においてもLINEチャットボットの活用が始まっている。コンシューマーをターゲットにしたもの、プロバイダー側をターゲットにしたもの、情報提供を目的としたもの、コミュニケーションの促進を目的としたもの、その手法や目的は様々であるが、LINEの手軽さに着目して操作性や使い勝手の良いアプリの開発が進んでいることが今回のレビューである程度分かった。今後もこの分野の動向に注目していきたい。